こんにちは。PM (Product Manager)のOです。アドベントカレンダー2回目の登板となりました。前回は「Juliaでラマヌジャンの数式を味わう」という趣味に走った記事を書きましたが、今回はもっとPMらしいことを書いてみようと思います。
Fail fast
“Fail fast”というのは「速く失敗せよ1」という意味で、シリコンバレーのスタートアップ界隈ではよく用いられる標語です。Googleを成功に導いた方法論の一つとしても言及されています2。一見すると逆説的な言葉ですが、その真意は実験と学習の重要性にあります。
どんなに優れた人物でも未来を常に完全に見通すことは不可能です。特にまだ誰も試したことがないような革新的なアイディアであれば、それが成功するかどうかは結局のところ実行してみないとわかりません。Amazonの創業者であるJeff Bezos氏は“I’ve made billions of dollars of failures at Amazon.com” (「自分はAmazon.comで何十億ドル分もの失敗をした」)と語っています3。一代で100兆円の企業を築き上げた彼のような天才でも、やることなすこと全てが成功だったわけではありません。続けてBezos氏は会社が失敗を受容し、実験を続けることの重要性を説いています。Fail fastも同様に新しいアイディアを試し、失敗することを奨励した言葉です。しかし、もちろん失敗してそのまま終わってよいわけではありません。失敗の後には学びがなければありません。アイディアを実際に試して失敗し、そこから得た教訓をもとにまた新しい仮説を試す。その繰り返しを早く実行することで成功を生み出す、それがFail fastという標語が真に意味することであると言えるでしょう。
Fail fast as a PM
さて、上のようなFail fastは事業レベルでの議論で用いられていますが、もう少しミクロにPMの仕事について考える上でもFail fastの精神は非常に重要だと思います。PMの職務は「新規プロダクトの開発」と「既存プロダクトの改善」の2種に大きく分類できます。そのどちらに関してもFail fastの考え方は有効です。
新規プロダクトの開発に関しては上述の事業レベルの話と同様です。どのようなプロダクトが成功を収めるか完全に予測することはできません。もちろん市場調査やユーザーへの聞き取りによりPMは可能な限り事前の予測に勤めますが、最終的な結果はやはりローンチしてみなくてはわかりません。この点を考慮すれば速いサイクルで仮説を立て、市場での実験でそれを検証する体制をつくることがPMにとって非常に重要であると言えるでしょう。時間はコストで、社内調整などで動きが遅くなっている間に競合に先を越されることは重大なリスクです。
「既存プロダクトの改善」に関しては、同様のプロセスをより高速かつ機械的に実行することができます。その鍵になるのはデータに他なりません。データ・ドリブン(データ駆動)であることとFail fastには密接な関係があります。既存プロダクトのパフォーマンスを上げるためには、新機能の追加、デザインや文面の変更など比較的小規模な施策を実行しその結果を見極める必要があります。こうしたプロセスはデータ・ドリブンなアプローチをとることで効率化できます。GoogleやAmazonなどの大規模なウェブサービスでは常に無数のA/Bテストが走っているといわれています。LinkedInが構築したA/Bテストの基盤とデータ・ドリブンな文化については弊社エンジニアの太田がブログで解説しています。このようなA/BテストやMulti-Armed Banditアルゴリズムに基づいた常に実験を行い、データに基づいた意思決定を自動的に行うシステムを作ることで、失敗を繰り返すことで学習し成功を目指すFail fastを実現することができます。
ちなみに日々の業務でもFail fastは有効です。PMなら要件定義やプロダクトの仕様・設計、またはビジネスモデルなどを考えて社内のステークホルダーに提示しなければいけない場面が多々あります。そうした提案を作る際に一人であまりに長い間悩み込んでしまうのはよいことではありません。皆さんのまわりに美術の時間などに書きかけの絵を見られるのをやたら嫌がる人はいませんでしたか? (僕もそうでした。)PM的にはこれはあまり良いやり方ではないと思います。ある程度一人で考えていて行き詰まったらステークホルダーにその時点での考えをぶつけてフィードバックを得た方がよいです。経験上、その方が最も効率的に正解にだどりつけることが多いように思います。一番まずいのは間違った方向性に行っていることに気がつかずそこで時間を浪費してしまうことです。とはいえ、ステークホルダーによっては最初から完璧なものが期待されていることがあるので、そこは注意が必要です。
A/Bテストフレームワークにより既存プロダクト改善のためにFail fastを実践できることはこの記事で述べました。より一般的に、Fail fastできる環境をどうやって作れるかに関してはまた別の機会で論じたいと思います。
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Notes
- 個人的に「早く」ではなく「速く」と訳したいです。
- https://www.economist.com/books-and-arts/2014/09/27/dont-be-modest
- http://fortune.com/2014/12/02/amazon-ceo-jeff-bezos-failure/