導入事例:KDDI株式会社

KDDI株式会社

物流センターの出荷業務を精緻に可視化
高度なデータ活用で出荷能力を1.4倍に向上し、物流倉庫のDXを加速

    徹底した現場の業務理解とデータ分析結果に基づく的確な提案は、そのスピードや精度の点で驚かされるものがありました

    KDDI株式会社
    (右)コネクティッドビジネス本部 モビリティビジネス開発部 エキスパート 西村 龍平 氏
    (左)購買本部 物流統括部 物流改革グループ コアスタッフ 松下 祐樹 氏
    (2024年2月取材当時)

     固定通信と移動体通信、またグローバル通信でも高品質なサービスを提供する国内を代表する通信事業者として知られるKDDI株式会社。多くの個人や法人の顧客に向けてスマートフォンやタブレットなどの通信端末、また関連するアクセサリーなどを販売する同社の在庫管理や出荷といった一連の倉庫業務は、東西2拠点のKDDI物流センターで統括されています。

      同センターでは、物流2024年問題を見据え、2021年ごろよりAGVなど倉庫業務の自動化を進めてきた。しかし、設備×ロボット×人の協調でオペレーションの改善に取り組み始めたものの、具体的な最適解が見出せておらず、また改善のため設備投資や人的リソースの妥当性を評価できていないといった課題が指摘されるようになっていました。

     そこで、倉庫内作業工程の可視化、データを活用したオペレーションの抜本的な見直しが不可欠だと考えた同社では、データ活用における高度な知見を備えたフライウィールに支援を要請、自社で持つ物流ノウハウとのシナジーを図りました。データ活用プラットフォーム「Conata」を導入し、現状分析、改善効果のシミュレーション、PoCと実地検証によって、さまざまな課題を解決することで、人員配置の最適化、設備のキャパシティ強化を実現するとともに、取り組み工程の繁忙期出荷能力を1.4倍に高めることに成功しています。

    ますます拡大する物流需要に対応するための
    倉庫業務の可視化、人員配置の最適化が課題に

     高度化する情報社会を支える国内有数の通信事業者として、経済発展と社会課題の解決を両立するレジリエントな未来社会の創造に大きな力を注ぐKDDI。その推進に向けて同社が2022年5月に発表した「中期経営戦略(2022~2024年度)」では、5G通信を核に事業領域を拡大する「サテライトグロース戦略」が掲げられ、(1)DX(デジタル・トランスフォーメーション)、(2)金融、(3)エネルギー、(4)LX(ライフ・トランスフォーメーション)、(5)地域共創の5つの領域でデジタルによる新たな価値創出を加速しています。

     さらに、KDDIではこの5つの領域にとどまらず、通信事業やその関連技術を応用した新規事業の創出にも力を入れており、その1つとして挙げられるのが物流ソリューション事業です。

     コネクティッドビジネス本部 モビリティビジネス開発部 エキスパートの西村龍平氏は次のように話します。「コロナ禍以降、EC市場の活性化によって物流需要は急速に拡大しています。しかし、現在の物流業界は人手不足などの問題から厳しい環境に置かれており、経済活動への影響を懸念する声が高まっています。こうした状況の解決策を探るべく、当社は 2022年11月に椿本チエイン様と業務提携し、各種業務の自動化による物流倉庫のDX推進に向けて、事業化を視野に入れたソリューションの検証を進めてきました。」

     一方、KDDIはかねてから自社の倉庫内業務でも課題を抱えていたといいます。同社が販売するスマートフォンやタブレットなどの通信端末、またアクセサリーなどの関連商品は、すべて東西2拠点のKDDI物流センターを経由して、auショップや量販店、消費者のもとに届けられます。この物流センターはまさに商品流通の要であり、従来からKDDIの社員がセンターに常駐し、倉庫内業務の全体設計と出荷業務の管理を行ってきました。

     しかし、この中で特に頭を悩ませてきたのが、個々の作業工程が十分に可視化されていないことによる最適な人員配置の難しさです。この点について、購買本部 物流統括部 物流改革グループコアスタッフの松下祐樹氏は次のように話します。

     「当社の物流センターの出荷量は、新商品のリリースなどによって大きく変動します。ここでは予想される需要に応じて、人員の配置やシフトを調整する必要がありますが、ピッキングや仕分け、加工、封かんといった一連の作業工程のどこに、どれだけの時間を要しているかを明確に把握できていなかったことから、確実な出荷対応を優先する結果、しばしば人員の余剰が発生していました。」

    ビジネスとデータ活用の高度な知見を備えた
    フライウィールをパートナーに選定

     こうした状況を変える転機となったのが、2023年4月に西村氏から松下氏に寄せられた物流倉庫のDXに向けたPoC(概念実証)の提案でした。

     西村氏は当時、データを活用して倉庫内業務を改善する新サービスの開発に取り組んでおり、その検証の場として自社の物流センターに着目しました。
    「西村からPoCの打診があったのは、東日本物流センターで新たなAGV(無人搬送機)を導入した直後でした。物流統括部としては、AGVの能力の正確な把握だけでなく、データに基づく一連のオペレーション改善にも取り組みたいと考えていましたので、この提案は私たちの課題認識と一致するものでした。」(松下氏)

     PoCの最終的な目標は、データによって倉庫内業務を可視化し、分析に基づくシミュレーションを実施することで、最適な人員配置による出荷能力の最大化を目指すことにあります。その実施にあたって、KDDIがパートナーに選定したのが、独自のデータ活用プラットフォーム「Conata」を提供するフライウィールでした。

     複数のパートナー候補企業があった中で、最終的にフライウィールに白羽の矢を立てた理由を西村氏は次のように説明します。
    「物流倉庫内では、WMS(倉庫管理システム)、WES(倉庫運用管理システム)、WCS(倉庫制御システム)といったいくつものシステムが稼働し、そこにはさまざまなデータが蓄積されています。倉庫内業務を可視化し、これらのデータを活用したDXを実現するためには、データの意味を理解するビジネスの知見、データを加工するエンジニアリングの知見、データを分析するサイエンスの知見のいずれも欠かせません。パートナーの候補となった企業の中で、このすべてを高いレベルで兼ね備えていたのはフライウィールだけでした。」

     加えて、倉庫内の各システムに蓄積されたデータを統合し、データの力で多様な業務課題を解決するデータ活用プラットフォーム「Conata」の存在も、フライウィールに支援を要請する大きな判断基準になったといいます。

    キックオフからわずか19日という短期間で
    出荷業務を精緻に可視化し、改善課題を特定

     2023年4月からスタートしたPoCは、フライウィールの提案により、3つのフェーズで実施されました。まず、4月から5月末までの第1フェーズで取り組んだのが、現状把握を目的としたデータによる出荷業務の可視化/分析です。
    具体的には、一連の出荷業務の作業工程を分解し、データを使ってこれまで把握できていなかった各作業に要する時間を明確化しました。これにより一定の時間に各工程で処理できる注文数・SKU数を算出し、予想される需要(出荷しなければならない商品数)に応えるため必要なラインや必要人員を時間別に策定した設備と人のシフトを設計することができました。

     フライウィールはKDDI や委託先企業からのヒアリングに基づいて、まず一連の出荷業務を「ピッキング」「仕分け」「封かん」「加工」など約10の作業工程に分解。これらの工程はWMS、WES、WCSという3つのシステムによって管理されていますが、「Conata」を使って3つのシステムのデータを統合し、各システムのログデータに含まれるタイムスタンプから各作業に要する時間を割り出しました。

     「第1フェーズでは、キックオフからわずか19営業日で各作業工程に要する時間が可視化され、その後もダッシュボードによる分析や改善施策の立案が可能な環境を整備することができました。
    この間におけるフライウィールの徹底した業務フローの理解、課題の特定、データ分析に基づく的確な提案は、そのスピードや精度の点で驚かされるものがありました。」(松下氏)

    データ活用・分析・可視化に基づいてボトルネックを解消し
    需要増大期に対応した1.4倍の出荷能力を実現

     第2フェーズで実施したのが、第1フェーズの結果をもとに作成したシフト案を用いた東日本物流センターでの実地検証です。フライウィールが作業ライン別の工数表と作業員別の工数表の2種類のシフト表を作成し、2023 年 6月からの2カ月で出荷量を変えたシミュレーションを2度にわたって検証しました。

     最初の検証では、作業員がいままで現場の感覚や経験で業務を実施しているところから、提示されたやシフト表に応じて1日の業務を実施することに慣れていないことや、一部の作業で想定外の事態が発生するなど、シミュレーション通りに実施する難しさなどを実感しました。そのため、現場スタッフと改善に向けたすり合わせを実施しました。そして、この検証におけるフィードバックを踏まえた2度目の検証では、シフト表を作業員ごとに色分けしたり、作業の時間帯を見直したりといった改善を行うことで、シミュレーションに対する達成率を90%台にまで高めることができました。

     「実地検証は、倉庫業務の委託先企業も参加する形で行いましたが、最初の検証を通して机上の理論では把握できない課題が明らかになったことで、2度目の検証の前に行った議論は非常に有意義なものになりました。多くの参加者から建設的な意見が出され、その結果、2度目の検証はほぼシミュレーション通りに出荷業務を行うことができました。物流統括部がこの新たな仕組みを物流センターの実務で利用できるという判断を下すことができたのは、この第2フェーズの成果によるものです。」(松下氏)

     その後、同年 8月からは第3フェーズとして、西日本物流センターも対象に加え実地検証を行いました。またこの時期は新商品がリリースされ物流センターにおいて年間最大の繁忙期でもあり、平常時より高い出荷能力の実現が目標として掲げられました。

     このフェーズの実地検証では、東西の物流センターの日程に応じて、それぞれ 3パターンのシミュレーション(計6パターン)を作成し、需要増大期に伴う制約条件を整理しながら、人員のシフト案を作成し、実行・検証を行っていきました。その結果、データをもとに繁忙期特有のボトルネックが事前に解消されていたこともあり、最終的にシミュレーション通りの1.4倍の出荷能力を達成することに成功しています。 

    合弁会社の Nexa Wareが新たな倉庫システムを商用化
    伴走型パートナーのフライウィールにも大きな期待

     松下氏は、一連のPoCと実地検証を次のように振り返ります。
    「今回の検証を通じて、出荷業務におけるデータ活用の意義を身をもって理解することができました。第3フェーズでは、東日本物流センターでピッキングステーションを拡充した場合のパフォーマンス分析も行いましたが、これにより設備投資の最適化へ向けた道筋も見えてきましたこうした成果も、データ活用の豊富な知見を備えたフライウィールによる伴走型支援の賜物です。」

     これらの成果を受けて、KDDIでは「Conata」を活用した新たな倉庫システムの実業務での採用を正式に決定し、現在は本稼働に向けた導入作業が進められています。この新たなシステムの提供元となるのは、KDDIと椿本チエインによって設立される合弁会社「株式会社 Nexa Ware(ネクサウェア)」です。2024年4月に事業を開始する同社は、この仕組みを「次世代の物流倉庫ソリューション」として市場に提供していく考えで、その最初のユーザーとなるのがKDDIです。
    Nexa Wareの事業開始に際して、西村氏はフライウィールの今後の支援にも大きな期待を寄せています。
    「物流業界の課題解決をビジョンに、物流倉庫のDX推進を目指す Nexa Wareのビジネスはこの先重要な取り組み領域となります。その中でデータ分析から課題解決までをトータルに支援できるフライウィールには、 Nexa Wareの新事業においても、新たな価値を共創する伴走型パートナーとしての役割を期待しています。」

     ビジネス、エンジニアリング、サイエンスの知見でデータから最大限の価値を引き出し、さまざまな経営課題、業務課題を解決するフライウィールは、今後もKDDIが推進する物流倉庫のDXにおいて大きな貢献を果たしていきます。

    掲載日: 2024年 5月 20日

    KDDI株式会社

    モバイル通信サービスや「auひかり」をはじめとする固定通信サービス、国際通信サービスの国内キャリア大手。高品質な通信インフラをベースに、5G通信サービスとIoT、AIなどのデジタル技術を組み合わせた企業のDX支援にも力を入れている。

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