2019年も残り少なくなってきました。年の瀬ということで皆さんも一年を振り返ることかと思います。フライウィールも、振り返れば今年はメンバーも増え、会社のステージも大きく変化しつつあります。
私はフライウィールで働いて一年余りとなります。以前は社員数の多い、いわゆる大企業で働いていたため、弊社のような小規模なスタートアップで働いていると両者の違いから気づくこと、学ぶことがあります。
今回は、環境、仕事のスコープ、心持ち、の3つの観点から、気づいたこと・学びを感じたことを書いてみます。
私自身そんなに多くの企業で働いて来たわけではありませんし、所属した組織や携わった業務によっても感じ方は人それぞれでしょう。あくまで私が自分の経験を通して個人的に感じたこと、と捉えて頂ければ幸いです。
環境の違いから
両者の間でわかりやすく違う点は環境でしょう。大企業では潤沢な資金とリソースにより、ソフトウェア開発・サービス運用を行うために様々な環境が整えられています。
大企業が提供する製品、サービスは多くのユーザを対象とすることが多いでしょうから、大量のトラフィックを捌くために多数のサーバを保有することになります。ご存知の通りクラウドサービスを前提にインフラ構築することが主流となった現在において、実際には資金さえあればインフラの規模などすぐにでも拡張できます。この点、大企業とスタートアップのような中小企業では以前よりも差は縮まっていると言えます。
とはいえインフラさえあれば開発・運用が滞りなくできるわけではありません。ソフトウェア開発、サービス運用を効率よく行うためにはシステム基盤やフレームワークの整備が重要です。
以前働いていた企業・組織での経験を思い返すと、以下のようなものが揃っていたことに改めて気付かされます。
- ソースコード管理やビルド実行・管理システム
- バックエンド・フロントエンドアプリケーションを開発するためのフレームワーク
- 様々なパラメータを調整しながら機械学習モデルを作成する仕組み
- 使いやすいフレームワーク/DSLが整備された並列分散データ処理環境
- サーバ・サービスの管理とモニタリング、ソフトウェアやデータのデプロイメントを一手に扱う統合されたプラットフォーム
- A/Bテスト・オンライン実験を実行・管理し、その結果から様々なメトリクスを計算、そしてリリースの意思決定を支援するプラットフォーム
- データ処理のパイプラインを作成・実行・管理するフレームワーク
- ログ等のデータは利用しやすい形に処理され、それらをAPIから利用可能なデータ基盤
そして、それらを複数のチームが複数のマーケット向けに活用するため、日々改良とメンテナンスを続けるチームの存在…(今さらながら社内のユーザにインフラ機能の提供をしてくれていたチームに感謝です)。これは大企業にしか出来ない分厚いサポートです。
自分はただ用意された仕組みを活用し、達成しなければならない開発に集中することができます。また各チームが整備してきたプラットフォームやフレームワークに触れることで (少なくともその時点で) 必要な機能、最良の実装方法の一つを学ぶことができます。
このような充実した環境でソフトウェア開発に携われることは大企業で働く大きな利点でしょう。
スタートアップ (特に我々のようなまだ小さな規模の会社) で、そのような環境は十分に整備されていません。もちろん先に挙げたような仕組みのいくつかは OSS や XaaS 製品を活用することで実現できるでしょう。ただそれを意思決定して取り入れ、運用していくのも自分たちです。必然的に視野を広く待たざるを得ず、大変です。
ただキッカケはともかく「視野を広く持つ」ことは必要なことです。これを現実的な状況で再認識出来たことは、スタートアップで働くことで得られた学びの一つだと思っています。
仕事のスコープの違いから
スタートアップではリソースは限られていますから、仕事のスコープは大企業に比べて狭くなります。言い方を変えると「必要なものに絞り込む」ことになります。これはスタートアップで働くことの大きな特徴だと考えています。
これまでのキャリアの中で、こんな経験がありました。
- 全マーケット向けに開発することになったこの機能、自分の担当するユーザには利点が無いし、誰も使わないだろうな…
- この仕事、自社/自組織にとっては必要とのことだけど…。もっとお客さんのためになる事にリソース使ったほうがいいのでは?
- いくら今年度分の予算が余ったからって、今は必要ないものを開発するの?
統一的な製品ブランディングのため必要、経営的には重要な施策、など大局的に見ればどれも意味があったのだろうと思います。私の未熟さもありました。もっと違う方向に持っていけるやり方もあったかもしれません。ただ、大きな組織の開発現場ではそんなモヤモヤする仕事が生まれやすいのではと感じます。
スタートアップにはそもそも余裕がありません。限られたリソースの中で何をするのが顧客やユーザのために・会社の成長のために役立つのか、よく考えなければなりません。モヤモヤすることをやっていると生き残れないかもしれない。
スタートアップに求められる「必要なものに絞り込む」ことは、企業やビジネスの規模に関わらず重要なことだと思います。不確定要素も多い中、常に一切の不安もなく決めた事に取り組めるわけではないでしょう。ですが自分たちが何に集中すべきなのかを問い続ける姿勢、これはスタートアップで働くほうが身につくスキルなのかもしれません。
心持ちの違いから
大企業は人数も多いため多様な人材が集まっています。様々なバックグラウンドを持つ同僚、上司から様々な刺激、学びを得られます。その多様性は大企業の強さの源泉の一つでもあると思います。ただ人数が多い分、一部の社員が会社に求めることが、会社がビジネスの成功のために目指す方向と違う場合もあるようです(これには色々なケースがあり、良し悪しを簡単に判断できない場合もあると思いますが)。そのため、何かを進める上でそのズレが摩擦となり必要以上に時間がかかることがあります。
フライウィールのメンバーも、入社のきっかけ、入社して実現したいことは様々でしょう。しかしスタートアップで働くことを選び参加を決めたからには「会社の成功を目指す」気持ちは共通であり、そこに大きなズレはないと信じています。
何かを実現する方法や道筋について、当然メンバー間に意見の相違は出てくるでしょう。しかし目指すところが同じであれば、最良のアイデアは何か、自ずと決まってくると思います。そして、それはスピード面で大きな強みになるはずです。
規模では大企業に勝てませんから「スピード」の部分、そしてそのスピードを生み出せる「チームメンバーの心持ち」は大切にしたい要素だと感じています。
重要なのは、会社の規模拡大とともにそれをどうやって維持していくのか、強くしていくのか、あるいは変化させていくのか、という事でしょう。この点について皆さん同様のことを感じていらっしゃるようで、先輩スタートアップ/ベンチャー企業のみなさんも様々な取り組みをされているようです。フライウィールのメンバーも先輩方の取り組みを見習いつつ、色々な試みを行っています。それは新メンバーを迎える時のプロセスの標準化だったり、コミュニケーションをより活性化する取り組みだったり。いくつかはこのブログでも紹介されると思いますが、今後より一層の学びが必要なのは間違いないでしょう。
おわりに
感じたことを取り留めなくと書いてしまいました。最後にまとめます。
- 環境面では大企業に大きな利がある。スタートアップが少しでも追いつくためには視野を広く持つことが大切。
- スタートアップは仕事のスコープを絞る必要があるが、いかに必要なことに集中するかはスタートアップで学べることの一つ。
- スタートアップの企業規模だとメンバーの意識にズレが少なくスピード感が生まれる。規模拡大の過程での取り組みが大切。
少し早いですが、来年もフライウィールをよろしくお願いします。
(まえだ・たつし フライウィール)